不動産売却における法人と個人の税金の違いは?計算方法や節税対策も解説

不動産売却における法人と個人の税金の違いは?計算方法や節税対策も解説

法人が不動産を売却するとき、個人での売却とどのように違うのかが気になる方もいるのではないでしょうか。
法人で不動産を売却するときには、個人とは異なる税金が課されるため、その違いを事前に押さえておきましょう。
そこで今回は、法人と個人の不動産売却における税金の違いや法人が不動産を売却したときにかかる税金の計算方法、法人だからこそ活用できる節税対策を解説します。

法人と個人の不動産売却における税金の違い

法人と個人の不動産売却における税金の違い

不動産を売却したときにかかる税金は、個人と法人で大きく異なります。
とくに経費として計上できる範囲や税率などに違いがあるため、注意が必要です。
ここでは、不動産売却における法人と公人の税金の違いについて解説します。

違い①かかる税金の種類

個人が不動産を売却するときには、不動産の売却益(譲渡所得)に対して譲渡所得税(所得税・復興特別所得税・住民税)がかかります。
それに対して、法人が不動産を売却するときにかかる税金は、法人税・法人事業税・法人住民税です。
また、個人は課税事業者ではないので、建物に対して消費税は課されませんが、課税事業者である法人では建物に消費税が課される点も違いのひとつです。
なお、不動産売買契約書に課される印紙税は、法人・個人を問わずに課されます。

違い②計上できる経費の違い

個人が不動産を売却するときにかかる譲渡所得税を計算するときには、不動産の購入時にかかった費用(取得費)や売却時にかかった費用(譲渡費用)を経費として控除できます。
また、個人が不動産を売却するときにかかる譲渡所得税は、分離課税制度となっているので、給与所得などほかの所得とは合算せずに単独で計算します。
一方で、法人が不動産を売却するときにかかる法人税などは、不動産売却による利益のみに課されるものではありません。
不動産の売却益にくわえて事業で得たすべての所得から、事業などで要した経費を控除して算出される最終的な利益に対して法人税などが課されるしくみです。

違い③税率

個人が不動産を売却するときにかかる譲渡所得税は、以下のように所有期間に応じて税率が異なります。

●短期譲渡所得(所有期間5年以下):39.63%
●長期譲渡所得(所有期間5年超):20.315%


一方で、法人税の税率は15~23.2%、法人事業税の税率は3.5~7.0%となっています。
また、法人住民税の税率は、23区内だと、標準税率で7.0%、超過税率で10.4%となり、この3つを合わせた最終的な税負担はおおよそ30%前後になります。

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法人が不動産を売却したときにかかる税金の計算方法

法人が不動産を売却したときにかかる税金の計算方法

前述のように、法人の不動産売却では売却益にくわえて、事業による売り上げも合算して税金を計算する必要があります。
ここでは、法人が不動産を売却したときにかかる税金別に計算方法を解説します。

計算方法①法人税

法人税は、「課税所得(益金-損金)×法人税率-控除金額」の計算式で求めることが可能です。
令和4年4月1日以降に事業を始めた資本金1億円以下の普通法人に課される税率は、年800万円以下の部分で15%、年800万円超の部分で23.2%です。
たとえば、不動産の売却により課税所得が2,000万円となった普通法人は、「800万円×15%+1,200万円×23.2%=398万4,000円」の法人税を納める必要があります。

計算方法②法人住民税

法人住民税は、「法人税割+均等割」の計算式で求められます。
法人税割は、法人税額に自治体の定める税率をかけたもので、たとえば東京23区では7.0%に設定されています。
一方で、均等割は資本金や従業員の人数によって税額が決まるもので、資本金が1,000万円以下、従業員が50人以下のケースでは7万円です。
たとえば、法人税が398万4,000円と仮定したときにかかる法人住民税は「398万4,000円×7.0%+7万円=34万8,880円」です。

計算方法③法人事業税

法人事業税の計算方法は、「課税所得×法人事業税率」です。
法人事業税率は、以下のように所得に応じて設定されています。

●年400万円以下の部分:3.5%
●年400万円超年800万円以下の部分:5.3%
●年800万円を超える部分:7.0%


たとえば、不動産を売却して得た利益と事業所得の合計が1,000万円と仮定すると、「400万円×3.5%+400万円×5.3%+200万円×7.0%=49万2,000円」の法人事業税がかかります。

計算方法④印紙税

印紙税は、不動産売買契約書に記載されている売買金額に応じて税額が設定されています。
たとえば、不動産を2,000万円で売却したときには、「1万円(令和9年3月31日までに作成された不動産売買契約書には軽減措置が適用)」の印紙税を納めなければなりません。
なお、印紙税は不動産売買契約書に収入印紙を貼る形で納めます。

計算方法⑤消費税

法人が不動産を売却するときには、建物部分に対して消費税が課されます。
たとえば、建物が3,000万円と仮定すると、結果的に「3,000万円×1.1=3,300万円」で売却する形です。
このときにかかる消費税は、売却相手に代わって課税事業者である法人が国へ納めます。
なお、土地の売却価格は消費税の課税対象とはなりません。

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法人での不動産売却の場合にできる節税対策

法人での不動産売却の場合にできる節税対策

法人が不動産を売却するときには、適切な節税対策をおこなうことにより、税負担を軽減できます。
少しでも節税につなげるためにも、どのような対策が可能なのかを事前に押さえておきましょう。
ここでは、法人だからこそできる不動産売却時の節税対策について解説します。

節税対策①役員報酬や退職金を活用して税率を下げる

法人では、役員へ支払う報酬や退職金などを損金として計上することが可能です。
そのため、不動産の売却益が大きいときには、役員へ支払う報酬や退職金などを増額すると利益を圧縮でき、結果的に法人税を抑えられます。
ただし、法人としての節税対策にはつながっても、報酬や退職金などによって所得が増えた個人に課される社会保険料は増えてしまう可能性があるところには注意が必要です。

節税対策②不動産投資による税負担軽減

不動産を売却した同じ年に、新たな不動産を購入して減価償却費を計上し、利益を相殺する節税対策もあります。
とくに築年数が耐用年数の22年を超えている木造の建物は、「22年×20%=4.4年」とわずか4年で購入費用を減価償却できます。
たとえば、木造の建物の購入費用が2,000万円のときには、4年間にわたって500万円の減価償却費を計上できるため、より高い節税効果が期待できる点がメリットです。
ただし、不動産投資による節税効果を高めたいのなら、購入する物件の減価償却費が高いかどうかの見極めが重要となってきます。

節税対策③設備投資をする

法人のメリットとして、事業や設備などへの投資金額の一部を法人税から控除できる点が挙げられます。
そのため、パソコンやコピー機、社用車などの設備を新たに購入すると課税所得を軽減でき、結果的に法人税の節税対策につながります。
また、「中小企業投資促進税制」を使うと、令和7年3月31日までに取得した新品の機械装置などの取得価額の7%相当額を所得から控除可能です。

節税対策④法人が利用できる特別控除を使う

法人が不動産を売却するときには、以下の特例を使うことが可能です。

●特定の長期所有土地等の所得の特別控除
●収用換地等の場合の所得の特別控除
●特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除


たとえば、2009年か2010年に取得した土地を売却するときには、「特定の長期所有土地等の所得の特別控除」の対象となり、課税所得から1,000万円を控除できます。

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まとめ

不動産を売却するとき、個人には譲渡所得税が課されるのに対して、法人には法人税や法人事業税などが課されます。
法人税や法人事業税などは、不動産の売却益に事業で得た所得を合算して計算する点が特徴です。
不動産の売却により増える税金を少しでも抑えたいのなら、役員報酬や退職金を活用したり、不動産投資をおこなったりなどの対策が有効です。